日本時間の7月27日から8月3日の8日間、パリオリンピック柔道の階級別個人戦と団体戦が行われました。
かつてはお家芸とも呼ばれ、オリンピックの度にメダルラッシュが起こる種目だった柔道。
パリオリンピックでは男女個人と混合団体で合計8(金3・銀2・銅3)を獲得しました。
出場国中ではフランスの10(金2・銀2・銅6)に次ぐ2番目のメダル数です。
しかし柔道女子代表個人のみに絞ると、本大会は2(角田夏実選手の金1と久保遥香選手の銅1)と日本歴代最低記録を更新する形で幕を閉じました。
この結果を受け、日本柔道連盟では次回大会に向けて早速、柔道女子代表の指導者交代や方針を模索しているとのこと。
当記事では、今回話題となった柔道女子代表を通し、日本”柔道”の在り方までを考えていきます。
監督交代?柔道女子代表の現指導者・増地克之(ますちかつゆき)さん
日本古来の”柔道”からスポーツの”JUDO”への転換点
柔道女子代表の結果から考える日本と”柔道”との今後の関係
まとめ
監督交代?柔道女子代表の現指導者・増地克之(ますちかつゆき)さん
2016年11月に全日本女子の監督に就任し、2021年開催の東京オリンピックでは女子個人において6(金4・銅2)に導きました。
彼が監督を務めたアジア選手権大会といった他の国際試合でも女子代表が好成績を残しています。
自身も柔道選手でしたが、オリンピック出場経験はなかったとのこと。
しかし代表監督以前にオリンピック柔道女子代表選手を輩出し、そんな指導者としての功績から抜擢されました。
選手・コーチやスタッフとのコミュニケーション機会を重んじ、女性だからといった性別ではなく、一人の人間として自然体で接することを心がけているそうです。
ただ時には、バルセロナオリンピック銅メダリストで妻の増地千代里(ますちちより、旧姓:立野)さんに女子選手の心理について相談することがあったとのこと。
寄り添いの精神が感じられますね。
各紙で話題になっている監督交代は単に本大会の結果だけではなく、代表監督の任期満了タイミングも相まってとのようです。
そもそも2016年監督交代時にも「(柔道女子代表には)女性監督がいいのではないか?」という意見が既に出ていました。
体制を変えることで、選手の心理面やチームの雰囲気にも変化が起こることでしょう。
スポーツは日々の鍛錬はもちろん大切ですが、様々な要素の巡り合わせなので、
指導者の交代・継続だけが成績を左右するものではないと思います。
ですので、応援する一国民としては、本大会の成績一側面だけを切り取って議論するのではなく、
まずは、伝統ある日本柔道のタスキをつなげてくれている代表選手団へ労いと賞賛を送る風潮がもっと強まることを願います。
日本古来の”柔道”からスポーツの”JUDO”への転換点
相撲がベースとなって1882年に誕生したといわれる柔道。
他の武道と同様に、「心技体」・本来は殺法であるからこそ、勝敗に関わらず相手への敬意を持って対決する
といった精神が大切にされてきました。
ところが、昨今の国際試合における”柔道”からは古来日本が重んじてきた思想が感じられない、
柔道ではなく“JUDO”だという声が年々強くなっています。
筆者もこの意見には概ね同感です。
ただ「何がきっかけで”JUDO”へ変化していったのか?」、この点は冷静に考察する必要があります。
2021年12月30日、国際柔道連盟(IJF)は2024年のパリオリンピックまで適用される新ルールを発表しました。
以下、主な変更内容です。
めくり
対決相手の背後から返すような技はポイントにならない
技の連続
一度動きが停止したのち、相手を押し込む技はポイントにならない
組み手の切り離し
組み手を切った場合は、ただちに切った方から組み直さないと指導
受け身
手もしくは両肘が地面に着く受け身を取ると技あり・受け身を取った選手に指導が行われる
逆背負い
韓国背負いが代表に挙げられる技は指導
頭突っ込み
技をかけながら、身体を前方に低く曲げ頭から畳に突っ込んだ場合、頭の側部であっても一発で反則負けと判定される
「一本決めやポイント・指導にあたる行為をシンプルに誰から見ても分かりやすく、スピード感を持って展開が早い試合をしてほしい」そういった狙いが窺えます。
これでは、武道の醍醐味であるその瞬間を作り待つ姿勢より、積極的に攻撃を仕掛ける姿勢が良しとされますね。
このようなIJFによる”柔道”の国際試合におけるルール変更は、上記以前から頻繁に行われてきました。
そしてそれは柔道が世界中に広まることとなったオリンピック種目への採用以降です。
つまり、単に”柔道”競技者が武道の精神を軽んじるようになったのではなく、
国際的なスポーツとして認知したからにはオリンピック憲章に掲げられるフェアプレー精神に則り
世界水準の平等がある対戦ができるようにとルールが軌道修正され、”JUDO”へと変化していった。
つまり、オリンピック種目への推薦と採用が”JUDO”誕生のきっかけになったと言えます。
柔道女子代表の結果から考える日本と”柔道”との今後の関係
オリンピック正式種目となった1964年から”柔道”単独の通算メダル獲得数、日本はパリオリンピックを含めると104に達しました。
これは2位のフランス67と大差をつけ出場国中で断トツのトップを誇ります。
金メダルのみに絞っても日本の51が1位、フランスは18と、依然圧倒的に抜き出ており、
歴代の柔道日本代表、そして現在の選手達が納めてきた成績はそれほど偉大なものであることが分かります。
しかし、柔道における価値観が日本と世界とで乖離が起きつつある今、
オリンピックをはじめとした今後の国際大会において日本柔道では通じなくなってくる可能性も考えられます。
世界的な強豪国としての位置を維持していくためには、”JUDO”に寄り添った戦い方で修練を積む必要があるでしょう。
一方”柔道”は武道、日本の伝統文化のひとつとして大切に受け継いでいくべきではないでしょうか。
あくまでどちらも同じ柔道であると認識するべきか、もはや別物として捉え両方を存続させていくか。
どちらの選択にも長所・短所はありますが、今こそ日本としてこの選択をすべき時なのではないかと思います。
まとめ
8月11日に閉幕するパリオリンピック。
本大会でもたくさんのドラマが生まれ、選手や観客を魅了していました。
筆者はリアルタイム視聴ではなく、連日ニュースで放送される試合ハイライトやメダル速報で追っていたのですが…笑
そして8月28日から9月8日まで開催予定のパリパラリンピック。
ここでも多くの選手が鎬を削り、その中でどんなドラマが生まれるのか…
世界規模ともなると様々な問題が生じることはありますが、
試合に出場する選手が全力を出すその瞬間だけは、観客も一体になり純粋にスポーツを楽しむ時間であることは間違いないですね。